千葉 直紀

複雑な世界やイノベーションの起こし方に決まった方法や答えはないため、実践を行うには、正解を求めない姿勢、評価者自らの思考の枠組みにとらわれないこと、状況を見定めながら、変化に柔軟に適応していく姿勢などが必要になる。

 DE(発展的評価)を実践する、というのはどういうことだろうか。

 まず、DEはあくまでも評価であり、評価をやらないのであればDEではないということだ。(例えば、マネジメント・コンサルティングをDE的におこなっても、DEとは言えない)

 実践するのは、あくまでも評価者となる。しかし、マネジメント・コンサルタントや伴走支援者にも十分に役立つ内容であるため、ぜひDEから様々なヒントを掴んでいただければと思う。

 DE実践におけるひとつの考え方として、ここでDEの提唱者マイケル・パットン氏の著書Developmental Evaluation Exemplars: Principles in Practice』(発展的評価事例集:実践における原則)で紹介されている図を示したい。

 下図は、マネジメント・コンサルタントであり学者であるナサニエル・フーテ氏が整理したものである。彼は、DEがなす役割をダイナミック・リフレーミング(変動する枠組みを捉えること)であると特定し、DEの役割と位置付けを明確にした。図は、縦軸をフレームの変動の有無、横軸を従来型評価(総括的評価・形成的評価)とマネジメント・コンサルティングというスペクトラムに整理した。これはDEがもっとも活かされる領域を視覚的に理解することに役立つだろう。

 従来型評価は、決められた枠組みの中で、介入(事業やプログラム)を遂行した主体者に依存することなく、それらの介入が実際に機能するかどうかを見定めようとする。一方で、マネジメント・コンサルティングはクライアントがより効果的な組織運営を実現できるように行為者であるクライアント(事業実施者)の利害のみに焦点を当てる。DEは評価であるが、行為者とともに複雑なシステムを変えようとするため、介入は必然的に行為者の特徴によって形作られることになる。さらに介入から得られた知見は主に行為者が認識して、それに基づいた意思決定や行動に移していくことになる。イノベーションやシステムチェンジを志向するDEでは、介入と行為者とを分けずにこれらが絡み合っている、絡み合う必要があると考えることが特徴なのだ。

 DEが必要とされる領域を整理したが、この引き出しでは、その領域の中でDEを実践するうえで役に立つ考え方のヒントを紹介する。引き出し【DEの基礎~「基本的な考え方」を知ろう】で示した通り、DEはマニュアル化・標準化ができないことが前提である。しかし、大まかな流れや進める上でのポイントはあるので、ご安心を。

 DEの実践には決まった方法は存在しない。というのもDEは「実用重視の評価」であり、「評価は役に立ってなんぼ」という考え方が根底にあるからだ。

 そのため、例えば前出のDE提唱者マイケル・パットン氏と、ニュージーランドのDE実践家であるケイト・マッケグ氏(両氏はCSOネットワークの研修の統括アドバイザー、指南役)との間でもアプローチが異なるところがあり、国・地域・分野によっても少しずつ違った形で発展している印象がある。

 一見すると捉えどころのないDEだが、ここで紹介する実践に関する引き出しには、どんなときにも共通して大切にすべきスタンスやメッセージが込められていると筆者は考えている。例えば、

・決まった答えや正解を求めないこと
・評価者自らの思考の枠組みにとらわれないこと
・状況を見定めながら、変化に柔軟に適応していくこと
・なぜならば、複雑な世界やイノベーションに答えはないのだから 

ということだ。

 次の引き出しには、DEを実践するときの流れに沿って、状況把握から評価設計までの考え方のヒントや、DE評価者のあり方、分析や評価に役立つツールなどを網羅した。どんどん開けて、あなたや事業対象に合った方法を見つけ、それを実践で試し、場合によっては使いやすいようにアレンジしながら役立てていただきたい。

実践①【Readiness(評価可能性/準備状態)チェック】

実践②【関係構築(Building Relationship)】

実践③【状況把握と状況分析(Situation Analysis)】

実践④【成功の姿を描こう】

実践⑤【プリンシプルをつくろう】

実践⑥【評価設計】

実践⑦【DE評価者のあり方とは】

実践⑧【CSOネットワーク主催『DE研修』の紹介】

実践⑨【ツールボックス~「DEの道具箱」】

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💻『DE Practitioner’s Guide』(DE実践者ガイド)