DEはすべての状況において適用できる評価ではない。DEを実施するのに向き不向きな状況があると同様に、評価者の中でもDE実践者として向き不向きな人がいる。従って、DE評価の世界に飛び込む前には、実際にどのような資質やスキルそして心構えが必要か、必ず事前に確認することをみなさんにお勧めする。それは、山登りでちゃんと装備と知識と心構えが備わっていないと遭難してしまう恐れがあることに、少し似ているかもしれない。
DE(発展的評価)は複雑な状況において、様々な創発の影響を受けながら、事業や活動の発展の先の予測や見通しがたてにくいときに実施するという、評価の中でも独特のニッチと目的をもった評価だ。そしてその実践の仕方も、従来型の総括評価や形成評価と異なるため、DE評価者はどのような立ち位置で評価を実践し、どのような資質とスキルが大切になってくるのか、十分理解しないうちにDEを始めると、混乱をきたしてしまう恐れがある。
■立ち位置について■
従来型評価においては、評価者が組織内部の人間であるか(内部評価者)、組織外部の人間であるか(外部評価者)は、評価の目的とあわせて大きな意味合いをもつ。例えばその評価が組織外の関係者や資金提供者に事業成果の説明することが主目的であった場合、利益相反のリスクを考えると外部評価者のほうが適切だと考えられる。もう一方で、組織の学びや評価結果の活用を主目的に考えると、内部評価者のほうがより効果的だというのが通説だ。
では、組織に「伴走」しながら評価することがマストと考えられている発展的評価者の立ち位置を考えるとどうか。組織の学びを目的におこなわれることが多い発展的評価においては、内部評価者のほうが適切かと思いきや、外部評価者を想定した場合もメリット・デメリットが考えられるため、一概には言えない。やはり簡単な正解はなく、その時々の状況に合わせて関係者で協議したうえでの選択となる。以下、JWマコーネル財団が作成した【発展的評価:実践者向けガイド】から、発展的評価者がそれぞれ内部評価者・外部評価者としての立ち位置をとったときのメリット・デメリットをまとめたものである。
ポジショニング |
メリットとデメリット |
発展型評価者が組織内部の職員 |
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発展型評価者が外部コンサルタント |
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Source: The J.W. McConnell Family Foundation and the International Institute for Child Rights and Development “DE 201: A Practitioner’s Guide to Developmental Evaluation”p.58, 翻訳:CSONJ
■必要な資質■
DE評価者にとって重要とされている資質はたくさんある。文献やDE実践者の間でよく挙げられているものの中から以下、筆者がDE実践を通じて特に大切だと実感したものを列挙する。
- 不確実性への耐性:本来、評価者の仕事というのは、不確実な現象をすべて想定した枠組み(ロジックモデル等)の中(あるいは外)へと整理・紐づける作業が中心なのだが、「想定した枠組み」が必ずしも存在しないDEにおいては、これがなかなかできない。複雑なシステムの中の数多くある現象をひとつひとつ把握し、読み解く(センスメーキング)作業は、時間も手間もかかり、一回結論づけた判断が状況の変化によってすぐまた覆されることも多い。このようなダイナミックな環境において、不確実な要素が複数あったとしてもそれを受け入れ、できるところから柔軟に評価を進められる心構えと一歩を踏み出す勇気はDEには必要不可欠だ。
- 信頼関係の構築:DEを成功裏におさめるには、「1に関係構築、2に関係構築、3、4、がなくて5に関係構築」といっても過言ではない。DEという評価は前もってその内容を特定できないため、そもそも伴走先の団体がDE評価者を信頼していないと始まらない。またDEが始まってからは、団体についての情報が評価者に随時共有されるような関係が成立していなければ、評価者が状況把握をおこなうことが難しくなる。時には評価者が、団体側の見解とは異なる意見を出すこともあるだろう。そういった批判も許す真の友達(”critical friend”)としてのDE評価者の役割は、団体側が厳しい助言さえも受け入れる評価者との関係性が存在しないことには成立しない。「変化は信頼のスピードで訪れる[1]」ため、DE評価者として結果を出すには、団体との信頼関係を構築できるための姿勢とコミュニケーション能力が最も大切な資質かもしれない。
- 戦略的思考とシステム思考:複雑な状況に呑み込まれ、進むべき方向性がわからなくなった場合、目指すべき方向性とそこにたどり着くための選択肢を出せるような問いを投げかけ続け、状況を読み解き、最適な次の手を提案できる戦略的思考をDE評価者には求められている。もう一方で、状況を俯瞰し、複数のシステムの中でどのシステムが重要で、その中でのバウンダリーや力学が何で、伴走先団体にどのような影響が及ぼされているか把握するために、システム思考を取り入れられることも重要とされている。DE評価においては、状況次第で、戦略的思考とシステム思考をいったりきたりしながら進めることを求められるのが難しいところでもあり、DE評価者としての腕のみせどころであるともいえる。
- 伴走力:DEが「伴走評価」ともいわれる理由は、評価者が必ずしも評価を推進させる主体という立ち位置ではなく、団体のイノベーションの発展をサポートする伴走者という役割を担うからである。この伴走者としての役割とは例えば、まず団体の価値観や活動に対してリスペクトし、先入観なしに団体が必要としていることを随時把握し、団体の言い分を傾聴し、状況に合わせて様々なツールを適用して議論を整理したり気づきを促したり、あるいはデータを収集・分析して意思決定を後押ししたりする。すべては伴走先団体による、伴走先団体のためのイノベーションの発展のために、DE評価者はありとあらゆるスキル、経験、知見を適宜投入し、支え続けるコミットメントが必要となる。
■その他必要なスキル■
- パターン認識と分析力:パターン認識は、数多く発現している現象の中から何か共通性を見出し、そこに意味を見出すことをいう。DEにおいては、予期できないところにおいても実は重要な「創発」や「発展」が生まれつつあることを、タイミングを逃さず認識し、イノベーションにとっての意味合いを示していくことがすべてのプロセスに組み込まれているため、このスキルが強いとDEの実践に有用だ。
- ファシリテーション、ファシリテーション、ファシリテーション:DEは関係者間の信頼関係を構築し、団体を伴走しながら、関係者間から価値を引き出し、イノベーションを発展させる。すべての段階において、関係者の意見を引き出し、可視化し、共有、コンセンサスをとっていくことにおいて、ファシリテーションスキルが必須であることは言わずもがなである。
- 記録づくり:これは地味だが、非常に重要なスキルである。DE評価の実施期間中、関係者は団体内外の膨大なデータに接する機会があるだろう。その多くは体系的に整理されたものではなく、関係者間の協議の中の内省や気づきだったり、外部から入手した耳よりな情報だったりする。あるいは、DE評価者と関係者のダイアローグの中身で、内容も一転二転しながら、DEの階段をあがっていくプロセスの記録だったりする。これらのデータを、その時々に整理して記録し、発展が行き詰った時などに戻ったり見返したりするように記録を整えるのも、DE評価者の大切な仕事だ。
最後に重要なこの考察をしめくくる。ここまで挙げたDE評価者の資質とスキルは、1人のDE評価者がすべて兼ね備えるというのはなかなかチャレンジングなことだ。そこで多くのDEの実践のベストプラクティスとして勧められているのが、チームを形成し、様々なメンバーがそれぞれの資質・スキルを持ち寄って、相互補完しながら一緒にDEを実施することだ。チームで実践することによって、評価チーム内での気づきの共有や発想の転換が容易になり、よりアジャイルに伴走先団体のイノベーションをサポートできるようになる。