トンカチを持っていると、すべてが釘に見える。DEの実践では従来型の評価の枠組みにとらわれずに、多様な選択肢(ツール)を知ることで、状況に応じたものを柔軟に使いこなせるようにならなければいけない。
「DE(発展的評価)ではどんなツールが使われているの?」、「ロジックモデル以外を使った評価のやり方があれば教えてほしい」などと、よく聞かれる。DEで紹介されている道具箱(ツールボックス)はたくさんある。正確に言うと、「DEでは使えるものはなんでも使う」というスタンスなので、様々な分野のツールがDEで応用されたり、新たに開発されたりしている。
2017年にワシントンDCで、筆者がDEの提唱者マイケル・パットン氏の講義を受けたときには、彼は「トンカチを持っていると、すべてが釘に見える」ということわざを紹介し、評価者が多くのツールを知り、状況に応じて最適なものを使うことの大切さを話していた。さらに彼は、「アジャイルで創造的な方法論を選択できるように、評価者はスキルやツールキットを備えよ」と話していたと記憶している。
パットン氏自身も様々な分野の実践家や学者との知の交流を図り、そこから気づきを得ながら評価への応用を考えて、新しい概念なフレームワークを生み出し続けているように筆者には見える。
DEは北欧やオセアニア地域を中心に、地域コミュニティの実情に合わせて評価者が発展させてきた。そこではツールも同時に発展している。例えば、ニュージランドのDE実践者の我らがケイト・マッケグ氏は、「DEをおこなうときは、社会的弱者が表現する(声を上げる)スペースをつくる」ことが大切だと話していた。ニュージランドでは先住民族のコミュニティ・ケアが国の大きな課題としてあり、その取り組みに関する評価をおこななっている。彼女が評価チームを組む際には、チーム内に評価者としてアーティストを加えているそうだ。そうすることで、たとえ先住民族と言語が違っても、彼らが絵や写真、音、映像などで表現することが可能となり、言葉が通じない相手にも彼らが感じていることを伝えることができる。これが「表現するスペースをつくる」ということであり、アーティスティックな手法を使った方法論の一例だ。
また「評価で見つけた価値を他人に伝える」(アカウンタビリティーを果たす)という観点では、
- スライド・ドキュメント
- デジタル・ストーリー・テリング
- フォト・サマリー
- インフォ・グラフィック
- など、様々な方法を教えてもらった。 これらも従来の評価報告書とは異なり、右脳に働きかけるような伝え方の例である。
▲引用元:画像はすべて『伴走評価エキスパート育成講座』(CSOネットワーク)Kate McKegg氏の講義資料より▲
さらに引き出し【DE実践の『8つの原則』】で述べたように、DEには「複雑系」や「システム思考」の領域が欠かせない。複雑系の全体像を捉えるためのツール、システムを把握し分析するツールなど、様々な手法が研究されて発展している。この辺りの領域でCSOネットワークが繋がっているのが、システム×評価研究の第一人者Bob Williams氏だ。(彼が来日したタイミングでワークショップを開催企画したいと思っているので、ぜひご参加いただきたい)
▲引用元:画像はすべて『伴走評価エキスパート育成講座』(CSOネットワーク)Kate McKegg氏の講義資料より▲
DE実践者のみならずソーシャル・イノベーションに挑む人は、従来型の(評価の)枠組みにとらわれずに、多様な選択肢(ツール)を知ることで、状況に応じたものを柔軟に使いこなせるようになっていかないといけないと思う。
次の引き出しで様々なツールを紹介する。今後もアップデートして「DEの道具箱」としてツールボックスの拡充を図っていきたい。
◇DEの実践に役立つツールボックス◇
- ツール① ステークホルダー(関係者)分析
- ツール② 問題分析
- ツール③ システムマップ/システムマッピング
- ツール④ 評価バウンダリーの設定
- ツール⑤ ロジックモデル
- ツール⑥ セオリー・オブ・チェンジ
- ツール⑦ リッチピクチャー
- ツール⑧ 価値観ワーク
- ツール⑨ ロードマップ
- ツール⑩ 3つの質問シート
- ツール⑪ 私の伴走評価シート
- ツール⑫ ルーブリック
おまけ:以下の写真は、『伴走評価エキスパート育成研修』(2018年度)でおこなったコラージュ・ワークのアウトプットだ。DE評価者としての自分をコラージュで表現している。これも自分を表現する方法論(ツール)のひとつだ。