千葉 直紀

事業を成功に導くためのはじめの一歩は、兎にも角にも、どんな人・組織が事業を取り巻くかを立体的に知ることである。

 DE実践を円滑に進めるためのツールボックスのはじめに、「ステークホルダー(関係者)分析」を紹介したい。ステークホルダー(stakeholder)とは、企業・行政・NPO等の利害と行動に直接・間接的な利害関係を有する者を指す。もともとの語源は、「ステーク(棒)を握るもの」という意味だそうで、個人や法人に限らず、自然や環境、社会も、システムに対して利害関係を有する者すべてが該当する。

 DE実践においては、組織内外のステークホルダーを多面的な視点をもって洗い出す(抽出する)ことが重要である。ステークホルダーを洗い出したら、彼らについて知るための努力をする。例えば、ステークホルダー個々人の思惑や、彼らが見えている世界を知るための努力をして、またステークホルダー同士の関係性を分析する。それぞれのステークホルダーの立ち位置を理解して、誰とどのような協力をしていけそうか、事業の影響(正負)の範囲はどこまでか、それを踏まえてどのように運営するか、さらにプロジェクトや評価のスコープ(範囲)を定めるとき、効果的な介入を考える上や、評価結果の活用をどのようにするかを考える上で役に立つ。

具体的な方法としては、

  1. ステークホルダー分析
  2. ステークホルダーマップ
  3. パワー分析(パワー・アナリシス)
  4. 価値観ワーク

などがある。それぞれ簡単に紹介する。

  • 1は、それぞれのステークホルダーの主な関心事項を整理する。プログラムやプロジェクトに関わるのであれば、それぞれが参加する目的、彼らの利害(BenefitとHarm)を洗い出すことが重要だ。プログラムやプロジェクトのオーナーやリーダー、評価者はそれぞれ表にするなど一覧にすると良いだろう。関係者が持つ強みや可能性に着目して情報を整理するという方法もあるかもしれない。

 

  • 2は、ステークホルダーの関係性を描くものだ。受益者を中心に描く場合、事業者を中心に描く場合などがある。受益者を中心に描くと事業者は自分たちのポジショニングや介入戦略を考えたり、他の事業者との協力や役割分担を考えやすくなるだろう。事業者を中心に描く場合は、自分たちが囲まれる環境を客観的に捉える機会になるかもしれない。

 

  • 3は、それぞれのステークホルダーが持つ影響力とコミットメントなどで軸を切ることで、プロジェクトや組織内でどのような力関係(力学)が働き、物事に影響を及ぼしているか、評価者であれば見極めと対応が必要であろう。効果的な介入のためにはどのステークホルダーにどのようなアプローチをとったら良いかを考えることができるかもしれない。

 

  • 4は、我らがケイトに紹介してもらったワークだ。価値観ワークについて、詳しくは別の原稿に記載するが、関係者同士の価値観を表現して、それを共有するための方法である。ステークホルダーの価値観も含めて相互に理解しあうことは、チームワークを円滑にして、プログラム・プロジェクトの成功確率を高めてくれる。

 

 いかがだろうか。さらに大事なのは、ステークホルダーの思惑や関係性は時間とともに変化するということだ。組織はそれを構成する人々からなる「複雑系のシステム」であり、事業はそれを構成する「ステークホルダーからなる複雑系のシステム」である。このステークホルダーのことを知る努力をすることは、はじめの一歩としてとても重要だ。

 今回紹介したものは、ほんの一例であるが、関わるステークホルダーのことを知ることで、事業の進展・成功につながることを願いたい。