DEには大切にすべき『8つの原則』がある。これは基準やルールではなく、プリンシプル(「原理」、「原則」と訳されることが多い)に近いものだ。DEの実践においては、この8原則のすべてが不可欠であり、各原則はどれか1つでも取り入れればいいのではなく、すべての原則を評価の中に統合することが必要だ。
DE(発展的評価)には評価者が実践するの際に大切にすべき『8つの原則』がある。これらは、DEの提唱者マイケル・パットン氏とケイト・マッケグ氏らが、すでに実践されているDE事例をもとに共通する要素を抽出してまとめ、『Developmental Evaluation Exemplars: Principles in Practice』(The Guilford Press.)に掲載したものだ。
<DE実践における『8つの原則』>
- 評価の目的は革新・適合・システム変更を支援すること
- 評価の厳格さを兼ね備えること
- 実用重視
- イノベーターに革新を気づかせること
- 複雑系の考え方
- システム思考
- イノベーターとの共創
- タイムリーなフィードバック
詳しくは同書の第15章で解説されているが、それぞれ筆者が簡単に概説しよう。
1.評価の目的は革新・適合・システム変更を支援すること Developmental Purpose
DEの目的自体が“発展的”だ。なぜならば、イノベーション自体が“発展している”からだ。そのとき評価は「何が発展しているのか」、「イノベーションと適合のプロセスや意味」を明らかにし、情報を提供し、発展をサポートする必要がある。なので、評価もまた発展的でなければならないのだ。
もし評価者として、システム変革を目指すイノベーターに出会ったときには、「イノベーターが何をしようとしているのか」、「何を達成しようとしているのか」、「どのように測定すればいいのか」などは、わからなくてよいと言えるだろう。何をするべきか、あらかじめすべて規定される従来型の評価のように枠に収まってしまうのであれば、イノベーションは起こらない。
2.評価の厳格さを兼ね備えること Evaluation Rigor
データがなければ、評価はない。DEは評価なので、データを扱う。DEは決して簡易版の評価ではなく、一方で無作為化比較試験(RCT)か外部の独立評価に限定されるものでもない。どんな意味で、評価の厳格さを兼ね備えるのか。
評価の厳格性は、大きく分けて「評価的推論:Evaluative reasoning」と「評価的思考:Evaluative thinking」の2つの側面がある。それぞれ簡単に書いておきたい。「評価的推論:Evaluative reasoning」は、人々にとっての「価値」は何なのかを多様な視点から考え、基準に照らして判断し、価値(基準)から評価的結論に至るまでの推論プロセスを透過的かつ確実に実証できるようにすることだ。いわゆるロジックがつながるようにすることが必要なのだ。
「評価的思考:Evaluative thinking」は、例えば、仮説を組み立てることから、情報を求めて確認したり、データを分析したり、所見の意味を査定するために協力したり、さらには結果や結論に疑問をもち再調査するに至るまで、すべてに現れる。そして、この評価結果を活用するユーザー(多くの場合はイノベーター)とおこなう適切な方法論に基づいた意思決定にも、評価的思考が必要だ。
3.実用重視 Utilization Focused
DEは「実用重視評価(Utilization-Focused Evaluation)」の系譜に位置する評価である。この実用重視は、「評価は役に立ってなんぼ」という考え方であり、対象ユーザーにどのくらい活用されるかが評価の価値を決めるということだ。DEは実用重視の法則によって導かれ、最初から最後まで対象ユーザーによる意図された利用を重視し、実用性と実際の利用を確保する評価プロセスを円滑に進める。イノベーションの発展に貢献するには、実用重視の視点がいかに重要かがわかるだろう。
4.イノベーターに革新を気づかせる Innovation Niche
我々は、他人のことはよく見えていても、自分自身のことは見えないものだ。これは社会的な課題解決に向かうイノベーター(事業者)も、また然り。そんなときに、イノベーターに伴走する評価者がいることが、イノベーターに革新を気づかせるかもしれない。例えば、伴走者(DE評価者)は次のような視点や問いかけが必要かもしれない。
・イノベーションに関連するキーワードをどう定義しているか?
・あなたたちが目指すべきシステムチェンジは何か?
・それらを再定義するとどうなるのか?
イノベーターに革新を気づかせることは、DEの目的と照らして合点がいくだろう。
5.複雑系の考え方 Complexity Perspective
「複雑系」を理解することは、DEのすべての側面について情報をもたらし、これを支える。DEに特に有効であることが判明した「複雑系」の概念には、創発、非単線形、適応、不確実性、動的、そして共進化などがある(Patton、2011年)。 DEではこのような「複雑系」のレンズを通して、ものごとの発展を理解し、そしてそれに従って評価を行う必要があるのだ。
6.システム思考 Systems Thinking
社会はあらゆる側面でつながっている。社会課題になると、要素が複雑に絡み合い、もはや根本原因を見出すことは不可能に近いだろうし、そのような考え方はナンセンスかもしれない。そんな中でシステム思考は、多次元的な影響や相互の影響を概念化するための手段を提供してくれる。DEにおいてシステム思考は、全体を通して体系的に考えること、注意深く相互関係を理解すること、複数の観点に取り組むこと、システムの境界線(フレーミング)を考えること、デザインし、結論を導き出すのに不可欠だ。
7.共創 Co-creation
原則1で示したように、DEの目的が「革新・適合・システム変更を支援すること」ならば、DEが変化のプロセスの一部となるよう、イノベーションと評価を相互に織り交ぜ、相互に依存し、反復し、共創するように一緒に展開することが必要となる。そう、DEにおいて評価者は、外部から客観的に評価をする役割ではなく、イノベーター・チームの一員として、化学反応を起こすための触媒役となることが求められるのだ。
8.タイムリーなフィードバック Timely Feedback
評価のフィードバックは、あらかじめ決められたタイミング(例えば、プロジェクトの中間と終了時)だけではなく、現在進行形で必要とされるタイミングで行うことが必要だ。 なぜならば、我々はリアルタイムの世界に生きているからだ。この世界で物事は急速に変化し、変化のスパンは短く、 機会という窓の開閉はめまぐるしく、そして情報は絶えず多方向から流れてくる。 そのような現実世界であらかじめ決められたタイミングのみにしか評価フィードバックをおこなわないのであれば、何も生まれないし、役には立ちづらいだろう。この原則は、そういうメッセージなのだ。
参照:Patton, Michael Q., Kate McKegg and Nan Wehipeihana (2016), Developmental Evaluation Exemplars: Principles in Practice, New York & London: The Guilford Press.