千葉 直紀

「成功の状態(サクセスイメージ)」を描くことは、不確実で先行きが見えづらい状況や、多様なステークホルダーがいる中、事業が発展途上のときでも、関係者にとっての北極星となる。

 DE(発展的評価)実践におけるひとつの大きなアプローチとして、「成功の状態(サクセスイメージ)」を描くことがある。これは『伴走評価エキスパート育成講座』の指南役であるニュージーランドのDE実践者Kate McKegg(ケイト・マッケグ)氏に教えてもらったものだ。(ちなみに、もうひとつの大きなアプローチとしては、「プリンシプル」を起点に考えるアプローチがある)

 はじめにDE実践における「成功の状態(サクセスイメージ)」の位置付けを整理したい。「評価(evaluation)」の語源は、“価値(value)を引き出す(ex+)”だ。DEに限らず評価では、この言葉の通り、事業が持つ価値をどのように引き出せばよいかを考えるが、ステークホルダー間で「成功の状態(サクセスイメージ)」を描くと、そこから価値を考えることができることが特徴である。

 これはどういうことか?

「成功の状態(サクセスイメージ)」を描くと、事業の重要なステークホルダーが持つ価値基準が明確になるからだ。

 通常、それぞれのステークホルダーの価値基準は明示されていない。多様なステークホルダーがいる中で、価値基準が見えない中で(おそらくそれぞれの思惑が異なるとき)、いきなり評価設計を行うことは困難を極めるかもしれない。

 しかし事業の「成功の状態(サクセスイメージ)」は、状況の複雑さやステークホルダーの多さに限らず描きやすいものだ。まさに複雑な状況を未来の視点からシンプルに考えさせてくれる翻訳機のようなイメージかもしれない。

 我らがケイトは、「DE実践においては、何がおこったら成功なのかを第一に考えること。データを取ることは二の次である」と言っていた。「成功の状態(サクセスイメージ)」は、事業や取り組みが最良の形でうまくいく場合はどんな状態かをイメージするものだ。この「成功の状態(サクセスイメージ)」が描けると、たくさんのいいことが起こる。

例えば、

・サクセスを描く過程で、組織内部や重要なステークホルダーの相互理解が深まる

・設定した目標があっという間に無効になってしまう“複雑な世界”において、どの方向に進めばいいかの示してくれる北極星となる

・対象事業にとって必要な『評価目的』の設定や、『評価設問(Evaluation Question)』づくりにつながる

などだ。

DE研修の中でケイトは、“ニュージーランドでの学校教育に関するある取り組み”の例を紹介してくれた。この地域では、白人系と先住民がうまく混ざり合わず、学校では先住民系の子供たちの学力が下がっていたそうだ。これを解消するために事業のステークホルダーでプロジェクトのサクセスイメージを描いたら、以下のようになったようだ。

<“ニュージーランドでの学校教育に関するある取り組み”のサクセスイメージ>

様々な民族の人が(この取り組みに)参加していること、男性も参加している、いろんな家族形態の家庭からの参加者があること、新しい人とこれまでの人たちがちゃんと混ざり合っている状態である。

 

以下に、具体的な描き方のポイントを紹介したい。

1)事業のステークホルダーの中にある大切なことが反映されていること(ステークホルダー間で合意すること)

2)話し合いや成功の姿のイラストを描くのみにとどまらず、出てきたことを言語化・テキスト化すること

3)なるべく細部まで描くこと

描き方は自由だが、例えば関係者でありたい未来をイメージしながら「リッチピクチャー」の手法で描くこと(その後、描いたイラストの説明を通して言語化・テキスト化すること)、協働事業であればそれぞれの組織の究極的な姿を話し合い、それらを統合することができるかもしれない。

図:DE実践によって描いたサクセスイメージ(2017年度 NPO法人しんせい)

複雑な世界を想定しているDEでは、「成功の状態(サクセスイメージ)」を描くことが、航路を見失わないキモである。すなわち、常に海面の状態が変化する航海において、航海における“北極星”のような役割を果たしてくれるだろう。これにより、事業者を正しい方向に導いてくれるだろうと思う。是非、取り組んでいただきたい。