「プリンシプル(Principle)」は「何をするかではなく、何を大切にして行動するか」を語る。これは複雑な状況に対応するためや物事を判断する上での羅針盤となる。
先行き不透明なこの時代、厳密に立てた計画や戦略は前提条件が変わるとあまり意味をなさなくなるかもしれない。では、複雑な状況の中、前提条件までが刻一刻と変わる状況において、何を指針として物事を判断、行動していけばよいのだろうか。
そのひとつとなりうるとDEで紹介されているのが、「プリンシプル(Principle)」である。プリンシプルは、「何をするかではなく、何を大切にして行動するか」を示すものである。「団体として大切にしたいこと」と「事業を行う上で大切にしたいこと」が言語化されていれば、計画、戦略、活動は自ずとついてくるだろう。
よくNPOや企業経営の世界で語られることとしてビジョンがある。また別の引き出しでは「サクセスイメージ(成功の姿)」を紹介した。ビジョンやサクセスイメージは、暗い海で目指すべき方向性を示してくれる北極星や灯台のようなものだ。一方で、プリンシプルは、進むべき方向性を示してくれる羅針盤のようなものと言えるだろう。
プリンシプルについては、既に別の引き出し
DEとプリンシプル(1)〜バックキャスティング一辺倒を超えて
DEとプリンシプル(2)〜複雑な世界における効果的な組織・事業運営のために
にも登場している。これらの引き出しでは、
・目標設定・管理、バックキャスティング中心の世の中に、一石を投じる考え方である
・物事が複雑化し、事態の予測が難しくなっている現代社会において、状況によってバックキャスティングとフォアキャスティングを使い分ける
という紹介を行った。
それでは、具体的にプリンシプルはどのように作るのだろうか?決まった作成手順はないが、本稿ではプリンシプルの具体的な作り方のヒントとして3つのステップを紹介したい。
1.プリンシプルを作る目的、活用方法を確認する
はじめのステップは「目的の確認」だ。プリンシプルを作ることで、どのように活用したいのかを今一度考えていただきたい。事業の推進や意思決定に活用したいのか、組織のスタッフの行動基準にしたいのか、外部のステークホルダーに説明したいのかなどの目的によって、踏むべきプロセスや巻き込むべき関係者、プリンシプルの具体化するべき度合いが変わってくるかもしれない。まずは、目的と用途を確認しよう。
2.プリンシプルを抽出する
次のステップとして、事業/組織としてのプリンシプルを抽出する。これには大きく2つの方向性があると思うので、それぞれ紹介したい。
(A)サクセスイメージ(成功の状態)から落とす
事業/組織が理想とする将来のサクセスイメージを描いて、組織内のスタッフや重要なステークホルダーが、大切にしていることを表現するという方法です。例えば、まず対象事業に関わるスタッフらでリッチピクチャーを描いて、スタッフが描いたものをそれぞれ説明してもらう。次にどのようなサクセスイメージを目指したいかについて関係者で投票する。投票が多く集まったサクセスイメージについて話し合い、そこからプリンシプルを抽出するという手順である。
このワークショップを行うのであればスタッフ3〜8名くらいで模造紙は2〜3枚、30〜60分ほど使って自由に表現してもらうのが良いだろう。ファシリテーターも必要である。サクセスイメージを描いたら一人ずつ内容を説明してもらう。またイラストで表現しきれなかったことについては話を聞きながら付箋でコメントを残すと良いだろう。投票は1人8〜10票くらいで、自分のサクセスイメージに近いものにシールを貼っていくなどのやり方がある。
(B)これまでの事業・活動の軌跡を振り返って抽出する
もう一つの方向性は、これまでの事業・活動の軌跡・歩みを振り返ることで、何を大切にしてきたのかを抽出するというアプローチです。事業・活動の振り返りに活用できるのが、活動記録や事業報告書、重要な意思決定に直面した際のミーティング議事録、事業・活動に関する写真、ロードマップなどだ。
例えば、プリンシプルを抽出するにあたって、以下のような問いかけがあると良いだろう。
・自分たちが歩んできた道はどのようなものか?
・その道でこれまでいかなる局面でどんな意思決定をしてきたか?
・それはどんな価値観や判断基準に基づいていたのか?
・そこから抽出できるプリンシプルは何か?
また事業・活動がうまくいった場合だけでなく、失敗したという場合の話も大いに参考になるだろう。
(A)、(B)のいずれの場合も、スタッフ一人ではなく、関係する多くのスタッフでグループワークを行うなど、経験と感性の共有、それらの創発を促す仕掛けを入れると良い。
3.プリンシプルの確認・検証
最後は、前のステップで抽出されたプリンシプルが良いものかどうかを確認・検証するというステップである。これには、さらにパットン氏が書籍で紹介している「プリンシプル中心の評価」(Principles-Focused Evaluation;P-FE)のフレームワークを活用できるだろう。P-FEは「プリンシプル」自体を評価しようというものだ。事業を見るのではなく、事業を生み出す土台であるプリンシプル(=組織のポテンシャル?)を評価するようなイメージだろう。
本書によると、「効果的なプリンシプルとは、規範、価値観、信条、経験、知識にもとづいて構想される好ましい結果(明示的な場合、暗黙知を含め)の方向に事態を動かすために、いかに考え、行動するかの指針を与える言明である」と書かれている。
さらに効果的なプリンシプルの5要件として、「GUIDE」というフレームワークを示している。組織内で作成した「プリンシプル」を確認・検証する際には、これに照らし合わせて確認すると良いだろう。E(評価可能な)は、若干わかりづらいかもしれないが、中間アウトカムのように達成したい状態が描かれていることが大切だろう。
ちなみに、国内の事例ではフローレンスが“フローレンスWay”という行動指針を作っている。これは組織内でスタッフが物事を進める上での判断基準であり、プリンシプルと言えるだろう。
https://florence.or.jp/news/2014/06/post905/
いかがだろうか?「何をするかではなく、何を大切にして行動するか」というプリンシプルを言語化することは、状況が目まぐるしく変わる状況で事業者にとって心の拠り所であり、日々の判断基準になりうる。