今田 克司

21世紀型のNGOネットワークが、グローバルな規範形成や政策決定に影響力をもつ効果的な運営をするために、評価(特にDE)はいかに貢献できるのだろうか。我らがマイケルのBlue Marble Evaluators のように、評価実践に潜在する変革のポテンシャルを最大限発揮しようとする試みが始まっている。

 引き出し【ネットワーク理論とHow Change Happens】において、未来志向のNGO実践家とDE(発展的評価)評価者は同じような思考形態をもちつつあると紹介した。しかし両者は、最近まであまり接点がなかった。

 例えば、筆者がCIVICUS勤務時代にやりとりのあったSteve Waddellは、2011年にまとめたGlobal Action Networks のなかで、グローバルに展開する多くの市民社会ネットワークについて書いているが、そこに評価の話題は出てこない[1]。Steve は、当時脚光を浴びつつあったNGOのネットワーク、あるいはNGOが中心的役割を占めるマルチセクターのネットワーク、例えば CAN(Climate Action Network)、EITI (Extractive International Transparency Initiative)、GAIN(Global Action for Improved Nutrition)、GPPAC(Global Partnership for the Prevention of Armed Conflict)、FSC(Forest Stewardship Council)などを引き合いに出して、これらが複雑系理論やシステム思考を取り入れつつあることを記載している。彼は、これらをまとめてGAN(グローバル・アクション・ネットワーク)と呼ぶ。20世紀型のNGOネットワークが、正会員組織、正会員から選任された理事会、理事会によってコントロールされる事務局というガバナンスの構成を基本としている(それはいわば国連モデルだが)とすれば、「21世紀型のネットワークはこの構成を基本にしてしまうと成長や発展が阻まれる場合が多い」と指摘している[2]

 では、21世紀型のNGOネットワークがグローバルな規範形成や政策決定に影響力をもつ効果的な運営をするために、評価(特にDE)はいかに貢献できるのだろうか。その答えの一端は、すでに【DEとプリンシプル(1)】【DEとプリンシプル(2)】で述べたが、我らがマイケルは、評価者が多様かつ喫緊なグローバル課題解決のためにもっと積極的に関与すべきと、Blue Marble Evaluators というイニシアチブを主導している[3]。ブルー・マーブル(青いビー玉)の意味は、地球から2万マイル離れてみると地球が青いビー玉として見えるという意味で、評価者が、地球の美しさを認識することから出発して、地球規模で全体を見て、システム思考で評価対象を選び、取り組んでいこうという思いが込められている。

 そして、評価者としてのこういった試みはすでにいろんな所に飛び火し始めている。例えば、Steve Waddellも中心的役割を果たしているグローバル・ネットワークの一つに、SDGs Transformation Forum があるが[4]、その6つの作業部会の一つが、「変革のための評価」(Evaluation for Transformation)である[5]。マイケルも名を連ねているこの作業部会のリーダーは、Zenda Ofir。筆者も知り合いだが、日本にも何度か招かれて評価関連のセミナーもやっている人物だ。作業部会の大きな目的は以下の2つとある。

  1. 評価実践に潜在する変革のポテンシャルを最大限発揮すること:評価の力を活用することによって、SDGs(持続可能な開発目標)などの国際合意達成に向けた必要な変化を理解し、変化を引き起こすことができる。特に、大きなシステムの変化、グローバル・システムへの影響を考えることによって、学び、行動、振り返りの経路を活性化し、刺激し、さらに新たな経路を開くことができる。
  2. 国際的な評価の体系に変革をもたらすこと:SDGsその他の国際的な希求に対する動きを加速させる評価の支援力をフルに発揮する。これまでの評価実践自体の枠組みを見直し、グローバル・システムの根本的な変革の一部として評価の考え方や体系も変革し、進化させていく[6]

 前者には、マイケルのプリンシプルのように、評価がGANの目的を果たすために役に立つという信念があり、後者には、評価学や評価の実践がこれまでこういったグローバルな目的達成のためにあまり力を発揮してこなかったという反省がある。今後、GANと評価はうまく結びついていくのだろうか。その問いかけは、私たちにも向けられている。

[1] Steve Waddell, Global Action Networks: Creating Our Future Together, 2011, Bocconi University Press,
[2] 同上、p.xiv。
[3] https://www.utilization-focusedevaluation.org/blue-marble-evaluation
[4] https://www.transformationsforum.net
[5] https://www.transformationsforum.net/transforming-assessment-and-evaluation/
[6] 同上。