今田 克司

コレクティブ・インパクト(CI)の取り組みがもてはやされている。フロントエンドで力を発揮する評価であるDEが、CIの特に事業形成時に適した評価として、各所で紹介されている。そこでDEは、「成功に至る新たな道筋を発見するのを助けてくれるような評価」と位置付けられている。

 コレクティブ・インパクト(CI)の取り組みがもてはやされている。CIとの親和性が強い評価がDE(発展的評価)だというが、どうしてだろうか。単純化していえば、それは、評価にも総括的評価のようにバックエンド(事業の終了時)を中心に力を発揮する評価もあるが、DEは、基本的にフロントエンド(事業の開始・計画時)で力を発揮する評価であり、CIの事業形成時に求められることに答える大きなポテンシャルをもっているからだ。

 CIについては、すでに書かれている日本語の資料やブログも数多く存在するので、ここではあまり繰り返すことはしないが、2011年にジョン・カニアとマーク・クレイマーがスタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビューに発表した論文[1]に端を発し、その後も概念やアプローチが進化している。基本的に、その初期の考え方では、CIが成立する条件には次の5つがある。

  • 共通のアジェンダ(Common Agenda)
  • 共有された評価システム(Shared Measurement Systems)
  • 相互強化の取り組み(Mutually Reinforcing Activities)
  • 継続的なコミュニケーション(Continuous Communication)
  • 取り組みを支える組織(Backbone Support Organizations)

 CIの取り組みを推進する目的で2014年に立ち上がったコレクティブ・インパクト・フォーラムでは、「CI評価ガイド」を発行している[2]。このガイドにおいても、CIの生成〜形成段階においてはDEが、成長〜成熟段階では形成的評価が、安定〜確立段階においては総括的評価が最も適しているという記述が見られる。

 CIにおいては、特に事業形成時の異なる参加団体間の意識のすり合わせが一筋縄ではいかない。CIの特徴に、複数の団体(多くの場合、異なるセクターに属する)がお互いの強みを持ち寄ることによって、それまでには創出されなかったインパクトが生まれるという構想がある。異なるセクターに属するからこそ、組織文化や考え方、事業へのアプローチやスピード感、コンセンサスを得るための協議の仕方など、事業の組み立てに関する意識が大きく異なるのが普通で、だからこそ、上記の5つの条件を確認しながら進むのが大事になる。この事業形成時の意識のすり合わせが不十分であれば、次の段階に進んだとしても多くの成果は望めないことになってしまう。フロントエンドに強いDEが力を発揮するというのもこういうわけだ。

 「CI評価ガイド」において強調されているのが、CIのプロセスにおいて「学び」の機会を意識的につくることだ。「振り返り」「対話」「問いかけ」「前提を疑う」「フィードバックを募る」といった作業をまさにコレクティブに行うことで、新しい情報、アイデア、洞察、懸念などの掘り起こしが可能となる。これらカギカッコでくくったものは、DEにおいてもいわば技法として取り扱っているもので、DE評価者が効果的にサポートすることで、このプロセスを生産的なものにすることができる。

 コレクティブ・インパクト・フォーラムでは、ミズーリ保健財団で乳幼児死亡率の軽減を目指した例も紹介されている。

「私たちは、それまでの事業のやり方を変える必要性に迫られたが、それは同時に、それまでの評価のやり方を変える必要性にも迫られることだった。新しい解決策をCIのアプローチで模索するとき、そこで求められている評価は、事前に決められた測定指標で成果を測る評価ではなく、私たちやパートナーが成功に至る新たな道筋を発見するのを助けてくれるような評価だったのである」[3]

 そしてこの「成功に至る新たな道筋を発見するのを助けてくれるような評価」として彼らが実施を考えたのがDEであり、探したのがDE評価者だったのである。