今田 克司

事業実施のための分岐点において、「事実はこうですよ」という情報を与え、事業実施者の意思決定を支援するのがDE評価者だという。DEがソーシャル・イノベーション支援の評価だというのはそのような意味があり、DEが基本的に‟伴走型の評価“と言われるゆえんである。

 引き出し【“21世紀の世界観で評価する”とは】で「DE(発展的評価)は、複雑系の世界観を基にすると、評価はいかに変わらなければならないのかを示すこととなった」と述べた。具体的にはそれはどういうことなのだろうか。これを端的に説明するには、我らがマイケルの評価目的と評価設問の捉え方を紹介するのがよいと思う。

 評価で最も大切なことの一つに、「何のために評価をするのか」、つまり評価目的を関係者が共通認識としてもつことがある。一般的に、総括的評価はアカウンタビリティー確保の、形成的評価は事業改善の評価目的をもつと言われる。そしてその評価目的を達成するために、評価の作業で事業や評価の実施者が答えていく一連の質問が「評価設問」と呼ばれ、いかに評価設問に答えていくかを「評価計画(あるいは評価デザインと呼ばれる)」のなかで明らかにする。適切な評価設問を立てれば、誰に対してどんな調査をすることで評価目的にかなった評価が実施できるのかがわかる。なので評価計画を立て、それを関係者で共有し、設問に系統的に答えていくことが大事なのだ。実例があった方がわかりやすいだろうから、評価計画の一例を示してみる。

出典:社会的インパクト・マネジメント・ガイドライン(社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ)

 マイケルによると、DEの評価目的は、「ダイナミックに変化する状況において、イノベーションを発展させ、介入(すなわち事業)が適応していくことをサポートすること」とある[1]。2回読んでみよう。それでもよくわからないかもしれない。そこで、マイケルにDEにとっての評価設問の役割を聞いてみた。すると、事業実施者に対して、次のような問いかけをすることだという答えが返ってきた[2]。この答えに基づいて評価設問を設定することが、DEをDEたらしめるというのだ。

「あなたが今知らないことで、もし知っていたら、あなたが今行っていることと違った決断や異なる行動をとる情報は何ですか?」[3]

 マイケルは事業実施者の決断の瞬間を分岐点(a fork in the road)と呼ぶ。事業計画を進めるために、事業実施者は状況把握に努め、課題解決のための有効な打ち手を考える。その細かい場面場面に伴走し、事実やその分析を提示するのがDE評価者の役割だという。事業実施者にとって、「これまでこういう場合は(通常は)、こっちへ行ってたけど、それでいいのかな」と悩む場面がたくさんある。そこでDE評価者が、「事実はこうですよ」という情報を与えることができれば、分岐点において事業実施者は異なる意思決定をするかもしれない、というのである。そういった分岐点で事業実施者が求める情報が何かを、評価設問の形で示すのがDE評価者の仕事となる。

 マイケルは、DEはソーシャル・イノベーション支援のための評価だという。ソーシャル・イノベーション、あるいはこれを行うソーシャル・イノベーターというカタカナは、なんだか特別の人々のような響きがあるかもしれないが[4]、マイケルのソーシャル・イノベーターのイメージは、上記のような場面で、事実を大切にし、状況を正確に読み解き、活動の目的に即して自らの対応を臨機応変に変えられるような柔軟性をもった人たちのことで、何も特別な人々ではない。マイケルたちが書いた『誰が世界を変えるのか』の日本語訳の副題は、「ソーシャルイノベーションはここから始まる」だが、その一番最初には、「この本は、…ごく普通の、欠点のある人々のために書かれた本だ」とある[5]

 DE評価は、このような事業実施者(すなわちソーシャル・イノベーター)に伴走した場合に効果を生む。そのことを、マイケルの問いかけは表している。