DEが新たに拓く21世紀の地平の一端としての“プリンシプル”。目標設定・管理、バックキャスティング中心の世の中に、一石を投じる考え方だ。複雑な世の中において、組織や事業の方向性の決定をいかにサポートするか。組織運営にとってもDE評価者の伴走においても、有用な概念として活用できるものといえる。
DE(発展的評価)が新たに拓く21世紀の地平の一端として、アカウンタビリティの概念を成長させていかなければならない、と記した(引き出し【DEとアカウンタビリティの考え方(2)〜DEが拓く新たな地平】参照)。これと同様に、DE的な発想から、物事の考え方を進化させていかなければならないと気づくタイミングがある。“プリンシプル”はそのキーワードのひとつだ。
世はバックキャスティング流行りである。日本語に訳せば「未来からの逆算」。2030年目標であるSDGs(持続可能な開発目標)が急速に広まったこともあって、脚光を浴びている。まず目標を設定してそこから現在やるべきことに戻ってくるという発想だ。個人でも組織でも、目の前のことに追われて「これってなんのためにやっているんだっけ?」と立ち止まってしまうような場合、定期的に長期的目標とそこに至る道のりを確認するのは有用だ。特に、SDGsがそうであるという人も多いが、集団として少し高めの目標設定をしてそこに向かってブレずに日々努力することで生産性も上がるし、なにより目標達成が可能になる[1]。
ところが、とDE的な発想では考える。物事が複雑化し、事態の予測が難しくなっている現代社会において、15年先の目標を動かさず維持することは果たして可能なのだろうか。そして、そのような疑問を発した場合、いかなるアプローチで物事に取り組めば良いのだろうか。
そのような質問をすると、我らがマイケルは必ずといっていいほど「それは場合による(It depends!)」と誤魔化すが、もうちょっと親切に言うと、「状況によってバックキャスティングとその逆のフォアキャスティング(訳せば「現在からの順算」)を使い分けましょう」になるだろう。そして、バックキャスティングとフォアキャスティングの行ったり来たりをするうえで有効活用できるのが、プリンシプルなのだ。
マイケルによれば、効果的なプリンシプルとは、「規範、価値観、信条、経験、知識にもとづいて構想される好ましい結果(明示的な場合や暗黙知を含め)の方向に事態を動かすために、いかに考え、行動するかの指針を与える言明」である[2]。組織にとってのバリュー(価値規範)に近い概念だが、マイケルは、プリンシプルはバリューを actionable なもの(それによって行動に移すことが可能になるもの)にするという[3]。
なので、「行動規範」という訳が一番すっきりするだろうか。一方、プリンシプルはルールのように行動を縛るものではない。例を見てみよう。
表1:プリンシプルとルールの違い[4]
すなわちマイケルにとって、プリンシプルは次のような意味で組織や取り組みにとって有用なものである。
- 分岐点(forks in the road)において選択の基準を与える
- 主要な関係者にとってのバリューを実践に結びつけることができる
- 方向性を示唆するが、細かい規則ではないので、状況に適応できる(複雑な状況に対応するための舵となる)[5]
分岐点の考え方については、【ソーシャル・イノベーション支援としてのDE】で記した。そこでは、選択の基準を与えるのは事実だと述べたが、もう一つ、プリンシプルもあるよ、ということをマイケルは言っている。
複雑な状況における舵取り役としてのプリンシプル。組織運営にとってもDE評価者の伴走においても、有用な概念として活用できるものだ。
この稿【DEとプリンシプル(2)~複雑な世界における効果的な組織・事業運営のために】へ続く。
[2] 2017年7月、The Evaluators’ Institute 主催のDE研修(ワシントンDC)での講義スライドより
[3] Michael Quinn Patton, Principles-Focused Evaluation: The GUIDE, 2018, The Guilford Press., p.125.
[4] Michael Quinn Patton, Developmental Evaluation, 2011, The Guilford Press., p.168
[5] 2017年7月の研修講義スライドより
関連する引き出し:【DEとプリンシプル(2)〜複雑な世界における効果的な組織・事業運営のために】
関連する引き出し:【DE と Social Justice】
関連する引き出し:【DEの世界観は21世紀の世界観(3)〜状況適応型という評価のアプローチの誕生】
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