今田 克司

個別事業を単位とするのではなく、組織や取り組みが明確に、あるいは暗黙知としてもっている行動規範に焦点を当てて、評価を遂行しようという問題提起が“プリンシプル”というキーワードでなされている。21世紀の世界観における評価のあり方を考えるうえで、DE的試みが拓きつつある地平の一端ではないだろうか。

 2017年の夏、「伴走評価エキスパート研修」の準備のために、筆者たちはワシントンDCでマイケルのDE(発展的評価)研修を受け、その足でトロントに向かった。参考にできるDEの事例について話を聞きたいと事前にマイケルにお願いしておいたところ、勧めてくれたのがトロント行きだったのだ。トロントで私たちは、Global Alliance for the Future of Food(GA)[1] のディレクターとDE評価者の話を聞くことができ、それを日本の研修事業で事例として紹介した。

 GAは、食について考え、グローバルな規模で行動する、主に欧米を中心にした財団のネットワークだが、ここでは、マイケルの教えに従い“プリンシプル”を最大限に活用していた。

 団体のミッション、ビジョンは結成直後につくらず、中長期計画もつくらなかった。正確なミッション・ステートメントやビジョンの設定をしようとしても、食をめぐるグローバルな言説は刻々と変化しており、下手をすると一年もすればビジョンや戦略を変更しなければならず、そう考えればミッションやビジョンを関係者間で合意することにエネルギーを費やすより、もっと効果的な時間の使い方があるだろうと考えたからだ。これは、しっかりビジョンの設定をして、それを中心に戦略策定をすべきというバックキャスティングの考え方からすれば異端のアプローチかもしれない。

 そうではなく、バックキャストとフォアキャストを繰りかえしながら、活動内容を決めていくのだが、そこで大事な羅針盤にしたのがブリンシプルであり、そのプリンシプルを基準とした事実認定のために伴走する評価者として入ったのが、DE評価者だったというわけだ。DE評価者の主要な役割は、団体の動き方の足跡をたどり(データを取る)、主要な関係者で常に共有し、軌道修正するための情報を提供することだった。

 

表1:Global Alliance for the Future of Foodのプリンシプル

 こういった経験が、マイケルや関係者によるBlue Marble Evaluators の試みに発展している(引き出し【グローバル・システム・チェンジとDE】参照)。21世紀の世界観に立てば、バックキャスティング一辺倒でない組織や事業運営の指針が求められているとわかる。マイケルはプリンシプルの考え方を進め、これを2018年にPrinciples-Focused Evaluation の著作にまとめた[2]。SMARTゴール[3]に対比させるように、効果的なプリンシプルにはGUIDEの要件があるという。G = Guiding 指針を与える、U = Useful 役に立つ、I = Insipring インスパイアする、D = Developmental = 適応をサポートする、E = Evaluable 評価可能な、の5つだ。DEの「D」も入っているが、「E」は、バリュー(価値規範)にとどまらず、プリンシプルが actionable でなければならないということを示しているし、「I」は、活動を続け、良い方向にもっていくためのエンジンとしてプリンシプルが機能するための必要な要件だといえよう。DE評価者の Pablo Vidueiraは、彼のGAにおける評価の学びをアメリカ評価学会(AEA)のブログにまとめている[4]

 個別事業を単位とするのではなく、組織や取り組みが明確に、あるいは暗黙知としてもっている“プリンシプル”に焦点を当てて評価を遂行しようという問題提起が、ここでなされている。21世紀の世界観における評価のあり方を考えるうえで、DE的試みが拓きつつある新たな地平の一端ではないだろうか。

[1] https://futureoffood.org
[2] Michael Quinn Patton, Principles-Focused Evaluation: The GUIDE, 2018, The Guilford Press.
[3] S = Specific 明確な、M = Measurable 測定可能な、A = Attainable 実現可能な、R = Realistic 現実的な、T = Time-bound 時間軸のある、の5つの頭文字を取ったもの。
[4] https://aea365.org/blog/pfe-week-evaluating-collaborative-principles-supporting-shared-commitment-the-global-alliance-for-the-future-of-food-by-pablo-vidueira/
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