今田 克司

現代社会のありようは、評価研究者、実践家など、評価を専門的に取り扱う専門家に、公平・公正な社会に向けた取り組みを強化せよと激励する。では、評価専門家以外は、そのような取り組みとどう関わることができるのだろうか。その答えが、評価的思考(Evaluative Thinking)にある。

 引き出し【評価と公平・公正な社会】において、公平・公正な社会に向けた取り組みにおける評価者の責務について示した。では、評価研究者、実践家など、評価を専門的に取り扱う専門家以外は、そのような取り組みとどう関わることができるのだろうか。その答えが、評価的思考(Evaluative Thinking)という概念にある。

 評価的思考とは、例えば、次のように定義される。

評価的思考とは、好奇心に駆られ、エビデンスの価値を信じて、

  • 物事の想定事項を見える化し、
  • 思慮深い質問を投げかけ、
  • 内省や視点の選択を通じて物事の深い理解を追求し、
  • 状況をよく理解した上での決断を下し、行動を用意する

認知プロセスである[1]

 2018年12月の日本評価学会大会で、筆者は、「評価的思考:日本のソーシャル・セクターに活用重視の評価を広める鍵概念」という共通論題セッションの座長を務めた[2]。このテーマについて積極的に発信している我らが友人、Thomas Archibaldに依頼したところ、快諾してくれたので、米国バージニア州とオンラインでつなぎ、逐次通訳を筆者が行って、ビデオ会議方式で報告をしてもらった。

 アメリカ評価学会の学会誌 New Directions for Evaluation(2018年夏号)は、評価的思考の特集号を組んでいる[3]。評価専門家のあいだでは「当たり前」としてあまり意識されない評価的思考だが、現代的課題に応える重要な思考のありようとして注目すべきものとなっている。

 トム(Thomas)は、なぜ評価的思考が注目されているのかという問いに対して、次のように解説してくれた。

  1. 社会のエビデンス志向が強まるにつれ、評価の役割に対する関心が高まっているから。
  2. 「価値づけ」、「価値の引き出し役」としての評価が注目されているから。
  3. 評価キャパシティビルディングの動き、協働型・参加型評価の実践の増大などの評価の民主化が進んでいるから。
  4. DEに見られるような複雑系理論の評価への応用が進展しているから。

 ここで注目すべきは、評価的思考は評価者だけがもっていればよいものではなく、社会をよくしようという取り組みに関わる人々すべてが持ち、意識すべきこととして奨励されていることだ。トムも、評価的思考を評価者以外が持つことが重要だ(しかも、悪い評価実践には評価的思考が欠落している!)と強調し、評価的思考を養い、有効活用するには、仕事のルーチンなど日常レベルでこれを意識し実践する組織文化づくりをすることが大事だと述べた。つまり評価的思考のクセをつける。そこでは、事業関係者がもっている暗黙の想定・了解事項を掘り起こし、事業関係者の間に存在する権力関係について考えることが日常的に行われるようになる。そういった組織こそが、21世紀的世界観の中で生き残っていく組織となるのだろう。

この稿【評価的思考(2)〜民主的なプロセスを保証する機能】へ続く。

[1] 筆者のDEプログで紹介。http://blog.canpan.info/csonj/archive/8
原文は以下より。Tom Archibald and Jane Buckley, Promoting Evaluative Thinking: A Key Ingredient in Evaluation Capacity (2012) http://www.eers.org/sites/default/files/Archibald_PromotingEvaluativeThinking.pdf
[2] 日本評価学会『第19回全国大会 「SDGsの国内展開と評価」』に報告を所収。
[3] Anne Vo and Thomas Archibald (eds.), Evaluative Thinking, New Directions for Evaluation, no.158, Summer 2018, Wiley Periodicals Inc.