千葉 直紀

”ゴールポストが動く状況”で、評価バウンダリーをどう定めるか。それを見極めるためには、観察と問い続けることが大切だ。

 問題構造を理解したら、事業者であればプログラムを設計するし、評価者であれば評価バウンダリー(領域)の設定をおこなう。通常評価の世界では「評価目的の設定」というが、DEではシステム単位で物事をみるのと、いわゆる”ゴールポストが動く状況”が続くことを想定しているので、評価バウンダリーを定めるという言い方をすることがある。

 よく評価案件の相談をいただくときに、「・・・してください」と来るが、それをそのまま鵜呑みにして評価設計に入ることはお勧めできない。必ず、評価者と事業者が協働して問題構造を把握した上で、目的を定めてから評価設計に入ることだ。

 事業者をはじめステークホルダーの様々な期待や思惑があり、現実的に使える時間や予算が限られている中で、何を評価の目的にするか、ここは評価者の腕の見せどころのように思う。「何がわかったら、対象とするシステムが良い方向に変わるか。事業推進や事業改善に役立つか」を問い続け、事業者と共に考え切ってから目的設定をおこなってもらいたい。

 引き出し【問題分析】でも紹介したが、評価バウンダリーの設定/目的を分析するために

  1. 直線的に考える方法(ロジカル・アプローチ)
  2. 曲線的に考える方法(システム・アプローチ)

の考え方が使えると思う。

  • 1.これは事業者であれば、問題分析により見えてきた問題をもとに、解決手段を考えるという方法だ。評価者であれば、事業者が定めた目的を評価の観点から追うことになる。PCMでも紹介されているので、参照されたい。(なお、PCMではこの後に代替案分析/プロジェクト選択が続く)

     特定非営利活動法人PCM Tokyo ライブラリー

  • 2.問題の全体像を把握した上で、評価領域(バウンダリー)を決める。ここは事業者とともに集めた情報を見ながらよくよく話し合い設定する。また設定した評価目的は状況や事業進展に応じて変わる可能性があることを意識しつつ、その評価バウンダリーの中にフォーカスして情報を集め始める。しかし、そのバウンダリーの外にも目を配っておくという、広い視野が必要だ。

    別の引き出し【システム思考 Systems Thinking】でも述べたが、「システム思考×評価」研究の第一人者のBob Williamsの提唱する考え方を再掲する。評価のアクション・スペースを決めるには、この3点を考えることを進めている。

1)相互関係性を理解する(understand inter-relationships )

2)複数の視点に取り組む(engage with multiple perspectives)

3)境界の決定を熟考する(reflect on boundary decisions)

さらに別の方法として、

  • 3.サクセスの姿を描いて評価バウンダリーの設定する、評価目的を定める

    という方法もあると思う。サクセスイメージを描くことで、「成功の状態に持っていくために、評価で何を知ることが重要なのか(知ることで事業推進の役に立つこと)」を考えやすくなるからだ。

 以上、評価バウンダリー/目的設定の話だが、最後に念押しをしておきたい。

 評価バウンダリー/目的は、決して評価者が勝手に決めるものではなく、事業者と一緒に考え、意思決定をすることが大切だ。この合意が得られなければ、評価で得られたデータは活用されずに終わるだろう。パットン氏がDEに込めた「実用重視」の理念を忘れないで欲しい。