千葉 直紀

すべての問題はつながっている。特定の誰かの行動を変えようとするのではなく、その行動を生み出すシステムの構造を変えない限り、そのシステムは同じような振る舞いを示す。決して個人の問題だけでなく、システムが原因であることが多い。

 社会はあらゆる側面でつながっている。社会課題になると、要素が複雑に絡み合い、もはや根本原因を見出すことは不可能に近いだろう。根本原因を特定するという考え方はナンセンスな場合も多い。

 システム思考は、物事のつながりや関係性も含めて考える思考方法である。すべての問題はつながっている。問題について考えるときは、そこには自分もシステムの一部として絡んでいることを自覚する必要がある。我々の日常の例では、例えば以下のようなものだ。

 最近プラスチックゴミ問題が気になっている。飲料メーカーは、ペットボトルの使用をやめればいいのにと思う。余裕のある時は、水筒を持って出かけている。けれど、忙しかったり、出張先だったりすると、どうしてもコンビニエンスストアや自動販売機にペットボトル飲料を買ってしまう。消費者は一斉に購入をボイコットすれば良いですが、なかなかそれはできない。ペットボトルの使用が問題だと思っていても、日常生活では使ってしまわざるを得ない環境、構造になっている。これは決して、個人だけの責任ではない。そして、コンビニや、飲料メーカー、ペットボトル製造メーカー、原材料メーカーなど特定の誰かの責任とは言えない。すべてが繋がっており、その構造が問題を引き起こす。

 システム思考の大家である故ドネラ・H・メドウズ氏は、次のような言葉を残している。

”自分の知らない問題は解決できません。自分に影響のない問題など、解決しようともしないでしょう。”

 

 教科書的には、システム思考のポイントは、以下の3点と言われる。

 ①問題を生み出すシステムの構造を捉えること・・・システム思考の出発点は、問題をシステムの構造として捉えることである。そのため、EVENTS(出来事)、TRENDS & PATTERN(傾向やパターン)、STRUCTURE(構造)と着眼点を深くしていくと、システムの構成要因である構造が見えてくるかもしれない。これを可視化するためのツールとして、「因果ループ図」などがある。

 ②時間的な遅れを考慮する・・・ある事象が原因となって次の事象が起こるまで、時間的な遅れが生じるだろう。システム思考では、物事のつながりに加えて時間軸も考慮する。この時間的な遅れが問題を難しく、わかりにくくしている可能性がある。

 ③フィードバックがあることが大事・・・システムの出力(アウトプット)が、システムの入力(インプット)に影響を及ぼすことをフィードバックという。うまく機能するシステムは、フィードバックの原理に基づいて設計されている。②の時間的な遅れが短くと③フィードバックがあることで、人は素早く学習して行動変容が起こる。

 では、これを評価に活用すると、どうなるか。DEにおいてシステム思考は、全体を通して体系的に考えること、注意深く相互関係を理解すること、複数の観点に取り組むこと、システムの境界線(フレーミング)を考えること、デザインし、結論を導き出すのに不可欠だ。

「システム思考×評価」研究の第一人者のBob Williamsの提唱する考え方を紹介しよう。ボブが言わんとすることは、「我々は決して全てを見ることはできない。自分にとっての真実が、他者にとっては真実ではない。システムを理解するには異なる視点が必要であり、それらを踏まえて「現実」をどのように理解するか」ということのように思う。ボブは、以下の3つによって、システムにおける評価のアクション・スペースが決まると紹介していた。

 1)相互関係性を理解する(understand inter-relationships )

 2)複数の視点に取り組む(engage with multiple perspectives)

 3)境界の決定を熟考する(reflect on boundary decisions)

http://www.bobwilliams.co.nz

最後に、以下の動画、システム思考を直感的に理解するのにとってもお勧めなので紹介したい。(英語ですが、イラストだけでも理解できるようになっています)ぜひ、ご覧あれ。

 

参考書籍および、その他のおすすめ書籍
システム思考をはじめてみよう(英治出版、ドネラ・H・メドウズ)
実践システム・シンキング 論理思考を超える問題解決のスキル(講談社、湊 宣明 著)
学習する組織――システム思考で未来を創造する (英治出版、ピーター M センゲ)