数多く存在する評価の実践の仕方の中において、DEは比較的新しい評価の部類と考えられている。他の評価とは異なり、DEならではのものとは何か? そもそも何でDEの必要性があるのか?評価界の中でのDEの存在意義や位置づけなどを把握することも、DEの理解を促進させる方法だ。
評価[1]の世界に一歩踏み込むと、「◎◎評価」(例:形成評価、総括評価、アウトカム評価、参加型評価、等)という言葉に出くわし、実際どれだけの種類の評価があるのか(!)と面食らうこともあるだろう。
その背景には、評価がそもそも実践から発した領域であり、他の社会科学分野と比べ理論化が進まず、実践の場でより優位な手法の開発を重視してきた歴史がある。あまりにも増えすぎた「◎◎評価」の存在とそのアプローチ間の対立、「インパクト」をはじめ様々な重要用語の定義の食い違い、そして評価を統一すべき理論的コンセンサスの欠如に、2016年度の米国評価学会会長のジョン・ガルガーニ氏は「評価の世界は精神分裂症を患っているようだ」と皮肉を交えて語る[2]。
では、このような多様な評価手法が並存している中での‟DEの存在意義“は何か?
DE(発展的評価)発案者のマイケル・クィン・パットン氏は、自著のDEのテキスト[3]において、星の数ほどある「評価」手法やアプローチが存在している評価の宇宙の中で、DEを輝かせるための位置づけを様々な側面から丁寧に説明している。
パットン氏は、「DEはすべての状況で実践できる評価ではない」と最初に断わる。むしろ、DEは独特の目的とニッチをもつ評価であり、その存在意義は、従来型評価では対応しきれない状況や対象にあてはめられて、初めて、その威力を発揮する。例えば、従来型の評価は、計画時にあらかじめ想定されたプログラムセオリーに基づく目標が定まっていて、その目標が達成されたか否かを比較的安定した状況下において判断することを得意とする。しかし、外部環境が複雑で事業が良くも悪くもたくさんの創発(emergence)の影響を受ける状況にあったり、事業を推進している主体が試行錯誤を繰り返しながらイノベーションを目指しているがゆえに、あらかじめ目標を詳細に立てられなかったりする場合においては、従来型評価の枠組みやプロセスがどうにもあてはまらない。まさにDEの独壇場となる。
パットン氏はそのテキストの中で「従来型評価とDEの対比表」(パットン、p.23-26 )を紹介しており、評価目的や状況、評価の対象、モデル化と手法、評価者の役割、評価結果とインパクト、複雑系理論へのアプローチ、評価者としての資質についてそれぞれの違いを述べることによって、DEの特性を浮き彫りにしている。
事業者を対象にした講演や研修の場などで筆者がDEの話をすると、「DEのやり方を具体的に教えてください」と、なかなか回答しにくい質問を受けることになる。回答しにくい理由は、DEはこれといった方法論が確立しているわけでもなく、また、決まった手順を忠実に踏めばできるというものでもないからである。
パットン氏は、DEはただのアプローチであり、DEの実践においては評価界の中にあるたくさんの手法を「状況に合わせて」いかにでも活用できると主張する。となると、DEは評価のいち手法ではなく、多数の手法を状況次第で柔軟に選択、あるいは組み合わせながら実践する評価となる。
では、結局DEをDEたらしめるものは何なのだろう?
これは筆者の個人的見解だが、DE実践者の中にあるマインドセット[4]が一番の特徴かと思われる。プログラムセオリーに頼らず、状況に適応しながら評価の枠組みも変化させ、意思決定のためになる情報を収集・分析する。そして、そこに生まれつつある価値観を丁寧に吸い上げ、イノベーションの真価を判断する。一度でも従来型評価を経験した実践者がDEの世界に入ると、その不確実性に不安を覚えるが、もう一方で、その自由度にも感動するという。
そしてこのDEの特徴を聞いてわくわくするあなた。ようこそDEの世界へ…。
[2] ジョン・ガルガーニー氏、2018年度ソーシャルインパクトデー基調講演より。
[3] Michael Quinn Patton. Developmental Evaluation: Applying Complexity Concepts to Enhance Innovation and Use, 2011, Guilford Press, Ch.2
[4] マインドセットとは、経験、教育、先入観などから形成される思考様式、心理状態。暗黙の了解事項、思い込み(パラダイム)、価値観、信念などがこれに含まれる。(グロービス経営大学院、MBA用語集より)