知のフロンティア(未知の領域)と呼ばれる「複雑系」の考え方から見えてくる世界は大変面白く、そして「複雑系」はDEの根幹そのものである。
複雑系は、知のフロンティア(未知の領域)と呼ばれる。これまで人類(科学)は、ミクロの世界とマクロの世界を探求してきたが、その先に「複雑系の世界」があったのだ。これはどんな世界だろうか、専門書[1]をひきながら、いくつか例を見てみよう。
<複雑系の例>
・アマゾンのアリ:アマゾンの熱帯雨林に生息する軍隊アリ。50万匹のアリが行進するが、これらのアリは扇状の形態を保ちながら群がり、行く手を遮るものを効率的に殺し、むさぼり食っていく。この軍隊を統率するアリはいない。1匹1匹のアリはほとんど盲目で、知能はないに等しい。100匹の軍隊アリを平面上に放つと、決して縮まることのない円を描きながら、消耗し尽くして死ぬまでグルグルと行進し続けるそうだ。しかしそれが50万匹になると、洗練されて合理的な行動をし、知性がある集団となる。
・脳の働き:ニューロンと呼ばれる細胞がコンポーネント(構成要素)の役割を果たしているが、その密集したネットワークがどのように脳の振る舞いを引き起こしているかは解明されていないそうだ。さらに意識や知性の話になると、さらによくわからない。。。
・経済:商品を売買する個人や企業が単純でミクロなコンポーネントを成し、様々な地域の住宅価格の変化や株価の変動など予測が極めて困難な全体としての市場の複雑な動きが集合的な振る舞いを形成する。
・WEB:管理者がないに等しい状態で個々人が自分のホームページを制作したり、他者のホームページにリンクしたりすることによって成立する。単純なルールから生じるWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)だが、複雑な振る舞いをする。
このように複雑系はあらゆる分野で登場しうる。
これらは、制御装置やリーダーの存在なしに組織化された振る舞いを生んでおり、「自己組織化」(self-organization)するシステムと呼ばれる。またそのようなシステムの巨視的な振る舞いを「創発的」であるという。複雑系は、「創発的で自己組織化する振る舞いを示すシステム」とも定義ができる。
そして、社会課題は複雑系の最たるものであるということは直感的にわかるだろう。
社会課題を複雑系を前提にして考えると、「創発的で自己組織化する振る舞いを示すシステム」に対しては、「管理」・「分析」・「計画」といった考え方には限界があることがわかるのではないか。事業者や評価者は、このような従来の物事の考え方・捉え方(要素還元主義)の根本的な転換が求められる。複雑系との付き合い方は、それらの性質をよく理解した上で、耐性を養い、向き合い続けるしかないと筆者は思う。
DEの書籍で、パットン氏が複雑系の性質・特徴・DEにとっての意味をまとめているので、ここで紹介しよう。
Patton, Michael Q. (2011), Developmental Evaluation: Applying Complexity Concepts to Enhance Innovation and Use, New York: The Guilford Press., pp. 150-151 より改変
複雑系研究のメッカである米国ニューメキシコ州にある「サンタフェ研究所」である。ここでは様々な情報発信やオンラインコースの受講も可能なので、興味ある方はご覧あれ。
https://www.complexityexplorer.org/
また、FSGもEvaluating Complexity についてまとめている。
https://www.fsg.org/publications/evaluating-complexity
[1]ガイドツアー 複雑系の世界: サンタフェ研究所講義ノートから(メラニー ミッチェル (著), 高橋 洋 (翻訳))
複雑系の知: 21世紀に求められる7つの知(田坂広志)
複雑系の経営: 「複雑系の知」から経営者への7つのメッセージ(田坂広志)
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