千葉 直紀

ものごとが生成中・発展中の状況下でも、ルーブリックを使うことで価値基準と、その物差しを考えることができる。

 DEが想定するような事業・活動のロジックが特定しにくい複雑で変化が早い状態で、事業・活動の成果をどのように測るか。そこにはルーブリックが役に立つ。

ルーブリック(Rubric)は、例えば

レベルの目安(各レベルの指標; indicator)を数段階に分けて記述して、達成度を判断する基準を示すもの

などと定義される。

 例えるならば、物差しのようなものであり、「何を測るかと、その程度はどのくらいかという目盛」がセットになったものだ。いろんな人たちがいろんな分野・科目でルーブリックを作っている。Googleの画像検索で「ルーブリック」を引くと出てくるので、興味ある方は見てみると良いだろう。

2018年度の『伴走評価エキスパート研修』では、ICUの小澤 伊久美先生を招き、ルーブリックについて講義を演習を通して学んだ。演習では、

・美術コンクールで、どちらのひまわりの絵が優れているか?

・作文コンクールは、どちらの作品が優れているか?

という問いをいただき、作品の良し悪しについてグループで話し合いながら、グループでひとつのルーブリックを作るという体験をした。

 また、ルーブリックの活用法として、

  • パフォーマンス課題の測定の、妥当性・信頼性を高めることが可能
  • ルーブリックの作成を通じて、活動の目的と評価の関係を見直すことができる
  • ルーブリックの作成の過程で、評価の観点や観点別の記述を可視化でき、関係者間で共通認識が得られる(外部者がいても、それで一緒にプログラムを作れる)
  • ルーブリックを提示することで活動の目標を、パフォーマンスする側(受益者)にも意識させることができる

のように紹介いただいた。実際に作ってみると、「ルーブリック作成に携わる関係者の価値観や価値基準がそれぞれ明らかになること」、そして「その価値基準を言語化してすり合わせるプロセスこそに意義がある」と感じた。

ルーブリックの作り方は、以下のように紹介いただいた。

(1)仮説をつくって精度をあげていくアプローチ

  1. 仮のものとしてルーブリックを観点のみでも良いので作り、それを用いて評価する作品を多く集める。(例:子供がいきいきとまなぶ・・・作品や作文など何を集めるかを決める)
  2. いくつかの作品を複数名が段階(3段階や5段階)をつけて評価する。同じ作品を複数名で評価する。その際、互いに自分の評価を伏せておく。
  3. 個々の作品ごとに評価結果を比較し、ほぼ似通った評価になった作品を中心に、その評価となったのは作品のどのような特徴があるか話し合う。同じような評価になったものの方が話がまとまる。それを言語化する。
  4. 討議を踏まえて、1で作ったルーブリックを調整する。重要な観点を追加する。

(2)みんなでやったものを言語化して、それを付き合わせて調整していくアプローチ

  1. 評価する作品を多く集める。
  2. 各自その作品を段階をつけて評価(総合評価)し、その段階になった理由を記載する。その際、互いに自分の評価を伏せておく。
  3. 結果を開示し、出てきた理由から評価の観点を抽出する。「私はこれが一番良いと思う。なぜならば・・・」そこで話し合う。
  4. 観点別に、どのような段階づけをするか、討議し、それを踏まえてルーブリックを作る。

 

 DE実践においては、事業・活動のロジックが組みづらい生成中・発展中の状況下でも、ルーブリックを使うことで価値基準と、その物差しを考えることができる。例えば、Kateが紹介してくれた手法だが、サクセスビジョン・ワークショップを行なって抽出された観点から、価値基準を決めてルーブリックを作ることができるのだ。そしてルーブリックを使うことで、定性的な情報を定量的に変換させることができるとういことも実用的だ。ルーブリックを使うことで、現在地を可視化して、みんなでそこを昇っていくという共通の達成目標とするような使い方もできるかもしれない。

 最後に、研修中に小澤先生に紹介いただいた面白い話を共有したい。

 金平糖作りにおいて、ロボットはベテランにならないが、金平糖職人に弟子入りした人間はベテランになる。この2者の違いは、金平糖作りの要になる「熱い、冷たい、早い、遅いなどの形容詞の感覚」の共有の可否にある。弟子は、師匠と生活を共にする中で、この形容詞の感覚を暗黙知として獲得することでベテランとなる。これは学校教育の現場でも同様である。普段から学生の様子を見ている先生たちは、先生同士の会話の中で「生徒がいい発言をした、キラキラしている」など、学生たちのパフォーマンスを価値づけしながら体験や観察を語っていることがある。これは(無意識に)価値のすり合わせを具体例を元にしていることになるため、現場でのルーブリックづくりの際に、どのようなものをどう評価するか合意する基盤づくりに寄与している、という。