システムは「相互に影響を及ぼしあう要素から構成される、まとまりや仕組みの全体」と表現される。社会はシステムの代表例であり、社会課題を考えることはシステムを考えることだと言える。システムをどう捉えるか、アプローチの一例を示したい。
本稿では、DE(発展的評価)の実践で用いる“現状をシステムで捉える方法”について紹介する。
DEでは、複雑な状況を捉えるために「システム理論」を用いることが推奨されている。引き出し【DE実践の『8つの原則』】でも紹介しているように、DEの原則には「複雑系の考え方」、「システム思考」の2つが含まれている。そのことからも“現状をシステムで捉えること”に重きを置いていることがおわかりいただけるだろう。
▲図表:複雑系理論とシステム理論(CSOネットワークの伴走評価エキスパート育成研修資料より)▲
評価のツールとして「ロジックモデル」があるが、ロジックモデルで表現されるような単純な因果関係・単線的なモデルは、現実世界を正確に描写するものではない。ロジックモデルを否定するわけではないが、ロジックモデルは現実のごく一部を切り取って表現したものであり、こればかりに頼ることは現実を見る阻害要因になり得るということは理解しておく必要がある。
▲図表:ロジックモデルの考え方(CSOネットワーク『伴走評価エキスパート育成研修』資料より)
CSOネットワーク主催の『伴走評価エキスパート育成』研修では、DEを「実際におこなう」出発点に立ち、現状をシステムで捉える一歩目として
(A)複雑系理論・システム理論をいかにDEに応用できるか理解すること
(B)現状をシステムで捉えるツールを学ぶこと
をおこなっている。
「システム理論」でよく出てくるのが「システムマップ」だ。例えば以下のような種類がある。
1.現状を把握するためのシステムマップ
(1)ステークホールダーマップ(ステークホルダー間の関係図)
(2)因果ループ図(変数間の因果関係図)
(3)リッチピクチャー(要素の有機的なつながりのビジュアル化)
…など
2.目指す望ましい状態を確認するためのシステムマップ
(1)成功の姿のイメージング”What does success look like?”(団体や事業が目指す成功の姿をシステムとして描く)
(2)イノベーションマッピング(製品・サービスの成功要因の把握、イノベーション実現のための戦略的決定を促す)
…など
▲図表:システムマップの例「肥満に関係する要因(英国保健省)」
多くの種類があるシステムマップの中で、ここでは「リッチピクチャー」について紹介する。
「リッチピクチャー」はかなり自由度が高く使えるツールで、「ステークホールダーマップ」と「因果ループ図」のいいとこ取りの合わせ技のようなイメージだ。評価対象の団体や事業の内側・外側にどんな登場人物(団体、人物)がいて、どんなことが起きていて、それぞれの関係性がどのようになっているかを整理・可視化することができる。「現状の姿を描くときに使われる場合」と「未来の理想の姿を描くときに使われる場合」とがあるが、通常は前者で使われることが多い。
「リッチピクチャー」を描くための3ステップを紹介しよう。評価者が自分一人で描く方法もあるが、関係者みんなで一枚の絵を描くこともできるので、参加者に例を示しながら説明するとよいだろう。
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<関係者みんなで描く場合>
【STEP1】登場人物(個人・組織など)や起こっている事柄の絵を描いてもらう
【STEP2】その絵の関係性を矢印で示し、説明の言葉をかいてもらう
【STEP3】描いたものをみんなで話し合う。話し合った内容を記録する
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「リッチピクチャー」のメリットは、
・誰でも参加できること(子どもでも描ける)
・複雑な現状を簡単に、しかも関係者みんなでとらえやすくなること
・文字ではなく、絵やアイコンを使うことで右脳・左脳も活用できること
などがある。
▲図表:リッチピクチャーの例(CSOネットワークの伴走評価エキスパート育成研修資料より)▲
ちなみにCSOネットワークのDE実践では、伴走先団体のスタッフが見えている現状を可視化するために、まずは「リッチピクチャー」を描いてもらい、その「リッチピクチャー」をもとにインタビューをおこなうやり方を試した。スタッフ間でオープンにおこなうことによって、「ああ、スタッフのAさんは団体を取り囲む環境について、こんな見方をしていたんだ」、「Bさんは団体のこういう価値を大切にしていたんだ」と、団体側も評価者も多くの気づきを得ることができた。
団体や事業を取り囲む現実が複雑なこと、様々なステークホルダーがいること、彼らの微妙な関係性など、細かい点までわかった上で、その現実をそのまま受け入れて評価に臨む。――この姿勢をもつだけで、評価によって引き出される価値が変わるのかもしれない。
いかがだろうか?
「システムマップ」、DE実践にぜひ活用してみてほしい。