人は経験を積めば積むほど、その経験値によって「事実」の「解釈」を早めてしまう。これは評価者や伴走支援者も同じこと。『3つの質問』で自分の思考の癖に気づき、真実を浮かび上がらせることが有効だ。
本稿では、CSOネットワークがDE(発展的評価)の実践で用いている『3つの質問』について紹介する。
静的な世界、すなわちゴールポスト(評価目的)が動かない世界では、評価目的に合わせた設問や評価基準を設定し、そのデータをとることで評価が進む。一方、DEが想定している動的な現実世界、すなわちゴールポストが動く(つまり評価目的が一律に定まらない)世界では、常に状況変化をウォッチして評価の姿勢を柔軟に変えていく必要がある。
このような動的な現実世界に対応するには、『3つの質問』が有効だ。
具体的には、
What?(どうした?)
So What?(だから何?)
Now What?(それでどうする?)
の3つだ。
これらの質問は、
・常に「状況」を把握し続ける
・常にそれらの「状況」を読み解こうとする
・そして、常に「状況」に適応しようとする
ことを支援するものだ。
DEでは、評価者がこの『3つの質問』を実践することで、評価対象の事業やそれを取り囲む状況の把握、そしてその状況に対応するための意識・姿勢を持つことが可能となる。
なぜ質問はこの3つなのだろうか。
我々人間は通常、情報(データ)を自分の解釈を入れて取り入れ、判断する傾向があるからだ。つまり、What(事実)があるときに、Whatで止まれずSo What(解釈) まで一足飛びに行ってしまう傾向があるということだ。それが、解釈や解決を早める効果がある一方で、バイアスを助長する/叙述以上のことをしてしまうことにつながる。そして肝心の叙述がわからなくなるという、データ収集にとっては致命的なことにつながってしまう可能性があるのだ。
What(事実)とSo What(解釈)とを分けて捉えることは、評価者のデータに対する姿勢を正すと同時に、評価に必要なデータを集める上でのキモになる。
So What(解釈)の過程では、自分が気づいていないことに気がつくチャンスがある。集めたWhat(事実)を主観や経験値のフィルターを外した状態で読み解き、そこからありとあらゆる可能性を考える。そして判断は行わない。それによって思考の枠組みから解放され、評価に必要な真実を浮かび上がらせることができるかもしれない。『3つの質問』をおこなうことによって、自分の思考の癖を把握でき、DE実践に必要なデータが得られるだろう。
▲図表:3つの質問のイメージ(CSOネットワークの伴走評価エキスパート育成研修資料より)▲
そしてこの『3つの質問』を回し続けながら、評価者が伴走先団体(事業者)に対してリアルタイムのフィードバックをおこない、団体の学習や意思決定、そして発展の支援をおこなう。
▲図表:3つの質問のサイクルを回すイメージ(CSOネットワークの伴走評価エキスパート育成研修資料より)▲
この『3つの質問』を使うタイミングは、
(a)評価のバウンダリー(領域)を定めるとき
(b)評価のバウンダリーが定まって、そこで実際の評価に使うデータを溜めるとき
の2パターンがあるように筆者は思う。
(a)は、ゴールポストが動く動的な世界において、ゴールポストを捉えるためにおこなうものだ。DEが目指すソーシャル・イノベーションの種がどこに落ちているかわからない状況の中で、その当たりをつけるための第1歩目として、まずは事実(What)を集めていくことが必要になる。
(b)は、(a)で定めた評価バウンダリーの中で具体的にデータを集める際に使う。ここでは評価者だけでなく事業者もWhat(事実)を収集する仕組みをつくることが大切になる。『3つの質問』を回すことは、団体と評価者で集めたWhatを読み解いたり(So What)、次の動きを決める(Now What)ためのコミュニケーションにも使えるだろう。(ただし一度評価のバウンダリーを定めたからといっても、必ずしもそれで固定されるわけではなく、バウンダリーの変更が必要となることもあるだろう。そのため、たとえ(b)の段階に進んでも、(a)を意識し続ける必要があると考える)
(a)でも(b)でも、「こんなにWhat(事実)ばかりを集めてどうなるの?」という意見もあるかもしれない。
“Connecting the dots”という言葉をご存知だろうか。
Apple創業者のスティーブ・ジョブズのスピーチで有名になった言葉だ。
一見すると何も関係ない様々な出来事(dots)が、振り返ってみると、あとから一本の線としてつながり、そのときこれまでのdotsの意味が初めてわかるというものだ。
DEにおけるWhat(事実)はdotであり、What(事実)をたくさん集めていくと、それが一本の線としてつながる瞬間がくる、すなわちConnecting the dotsに通じることがあるように思う。DE実践において、静的な世界での評価で見逃していたWhat(事実)をいかに捉えるか、そしてそれをいかに読み解き、伴走先団体の気づきや変容につなげるかが、DE実践者の腕の見せどころなのかもしれない。
以上は、DEについて試行錯誤しながら研修をつくり、実践する研修事務局(CSOネットワーク)の現時点での見解だ。正解はないので、評価を実践する読者の皆さまの中で、この『3つの質問』についてもっと良い意味づけや活用方法を見出していただければと思う。
ご参考までに、研修事務局で作成した『3つの質問シートの埋め方のヒント』を公開する。評価の実践の役に立てば幸いだ。
なお、DE実践における一連のプロセスについては、
▶『DE Practitioner’s Guide』(DE実践者ガイド)
にも詳しく掲載されている。