DEの特徴と、ニュージーランド におけるDEの事例
以下はプレゼン資料『DEシンポジウム_2McKegg_lecture』に沿って発表された。
マッケグ氏の自己紹介
マッケグ氏は、1800年代にニュージーランドに移住したスコットランド系アイルランド系の移民の家族の一員。このように会議の前で自分の祖先についてまず紹介することが、ニュージーランドでは大切にされている。
- 過去20年間評価の実践者として働いていると同時に評価について学びながら教鞭もとっているが、この10年間は特に、ソーシャルイノベーターや社会起業家たちが、ホームレス支援、教育、学業不振、水資源の配分、文化の再興、という難しい社会問題に取り組むことを評価者としてサポートしてきた。その過程で、戦略づくりやキャンペーンの立ち上げ、組織の発足などを一緒に行い、大きな変化をもたらすことをサポートしてきた。またDEについての著書もある。
2つのDEの事例について
- 一つ目の事例は、ニュージーランドの先住民族であるマオリや太平洋島嶼国系の子どもたちの体系的及び長期的な学業不振の課題についての取り組み。教育体制の中において長らく、このような民族の文化的な固有性が認められていない状況がある。オークランドのニュージーランド財団のほうで、5年間にわたる2000万ドル(NZドル)の予算が配分され、この課題に取り組むこととなった。幼少期から高等教育に至るまでに関わる取り組みで、マオリのコミュニティの中で行った。このような規模での取り組みは初めて。伝統的や文化的な原則や実践を使うことで、現代の世界の中で学業不振の問題に取り組んでいる。私は評価者として、プログラムの設立と発展の中にも関わってきた。具体的には、プログラムからの学び・振り返り・現状の解釈・評価者的な考え方の導入等を通じてプログラムの発展を手助けした。
- 二つ目の事例はニュージーランド政府による、より多くのマオリの人がスポーツに取り組むことを目的としたプログラム。文化やスポーツを対象としていることが、とても新しい取り組み。12のマオリのコミュニティの中でマオリの人たちがアイデンティティや文化を自ら認めながら、文化再興の枠組みを作成した。また文化に特化した信頼性の高いデータを収集する枠組みも導入し、4年間継続した。
2つの事例の共通点
複雑な状況下に実施され、取り組みとしての前例がなく、長期的に社会に根付いた課題に対し既存のやり方がうまくいかなかった中、イノベーションが試行されていたことが2つの事例の共通点としてあげられる。
- このような状況における評価プロセスは、
→俊敏に行われ、あらゆるコンテクストに対応できるようにした。
→学びと意思決定を現場でも資金的強者間でも可能にした。
→原則(principles)をガイドラインにした。関係する人々にとって、何に価値があるか、何が重要なのかを事業の原則として抽出。この過程が非常に重要。 - DEの質問の枠組みもあり、色々異なる状況にも適用できて状況に応じて使える。例えば、何が今創発していて、何に対してどうしていくのか、という質問。これがDEの実践のなかで非常に重要な質問。
DE評価者として必要なスキル・資質
- DEというのはとってもごちゃごちゃとしていて、これこそDEといえるものはない。状況はひとつひとつ異なる。このような不明瞭な状況においても、自分の進め方について自問自答しながら、柔軟に進めることが求められている。
- DEはチームとして行う。また評価チームだけでなく、共創という原則のもとに、イノベーターの中に入り込んで、共に取り組む。共創の原則は幅広いスキルが求められる。
- DEの早い段階では、システム思考、システムマッピング等を通じて、どういう相互関係がそのシステムの中にあるのか。どのような視点があるか、どこに境界があるか、理解するようにしている。
- DEにおいては、研究者として訓練を受けた実践者、測定する知識を持っている人は、その純粋なやり方を手放さなければならなく、柔軟に目の前の文脈にあわせることが求められる。異なる分野の人材とも協働するため、心も考え方も開いていくこと必要。複雑なシステム変化をもたらすことを目的とするために、DEの評価は長期にわたる。今まで出会ったことのない人と互いの価値観や働き方を早期に理解し合うことが大切。そのため、ファシリテーターとしてのスキルがとても重要。色々な評価の手法、アプローチやデータ収集のツールだけではなく、人々との関係を構築し、人々をまとめて一緒に考えて、一緒に作業し意思決定を行うためのスキルが必要。
- DE評価者は、不確実やあいまいさがあっても、それでもよしとしなければならない。必ずしも自分自身の次のステップがわからないこともある。きれいな計画を描いても状況がすぐ変化するため、一旦ご破算にしなければならないことも。そうやって方向転換をしていく。そういう不確実性、曖昧さの中でも人をサポートし、共に進むべき道を探る。そして意思決定をするための勇気が必要。
- DEの根幹に関わるのがプログラム関係者との信頼関係の構築。この関係性があるからこそ、変化を起こせるという前提から始まる。こういう関係性の中からいっしょに発展し、学び、データを収集し、何が起こっているか把握し、次の意思決定につなげていく。