千葉 直紀

ほかの評価と比較したとき、DEには大きく3つの特徴がある。「実用重視の評価」「複雑な現実世界での評価」「ソーシャル・イノベーションを誘発する評価」だ。まずはこの『3つの特徴押さえることでDEの外観をつかもう。

 マニュアルやルールがないDE(発展的評価)は、とらえ方によってさまざまな味や魅力、可能性に出合える。本稿ではまず、初心者でも理解しやすいオーソドックスなとらえ方として、評価におけるDEの『3つの特徴』(CSOネットワークによる整理)を紹介したい。

図1:評価におけるDE『3つの特徴』

 

①事業者に役に立つ「実用重視の評価」

 従来の「評価」は、例えばODA(政府開発援助)分野において、外部者により一方的におこなわれることが多かった。その結果、事業者が知りたいことが報告書に載っておらず、せっかく予算をかけて評価をおこなっても、評価結果は活用されないという悲劇が起きていた。

 このような背景から、DEの発案者であるマイケル・パットン氏は「実用重視評価(Utilization-Focused Evaluation)」という考え方を提唱しており、それがDEの大きな特徴の一つとなっている。

 DEは、「うまくいくのであれば、なんだって良い(Any way that works)」というのが基本姿勢であり、定型的な手法は定められておらず、事業者の役に立つことに主眼を置いた柔軟な評価のアプローチと言える。

 評価の役割は、事業者に役に立つ学びを提供、あるいはその活用を促すことであり、評価をマネジメントに直結させようとする動きと連動しているとも言える。DEによる「実用重視の評価」は、評価のもつ実用性をフル稼働させようとしていると言えるだろう。

 

②複雑な現実世界での評価

 現代の事業を取り巻く環境は、ますます変化が激しく、複雑になっている。そして環境は常に変化していくため、当初の計画通りに物事が進まないのが常である。このような複雑な現実世界をそのまま受け入れて柔軟に対応するために、DEでは「複雑系理論」や「システム思考」の活用を推奨している。

 これらの思考は、“物事の根本原因を突き止めようとすることは不毛であり、複雑な現実世界をそのままシステムとして受け入れる”というアプローチを採用している。

 この複雑な状況は、よく“子どもを育てること”に例えられる。子どもを育てるような、個別性や不確実性、マニュアルがつくれない状況を前提としたのがDEだ。

図2:状況の分類


③ソーシャル・イノベーションを誘発する評価

 ソーシャル・イノベーションは、「社会問題に対する革新的な解決法。既存の解決法より効果的・効率的かつ持続可能であり、創出される価値が社会全体にもたらされるもの」(クリス・デイグルマイヤー氏 スタンフォード大学ビジネススクール ソーシャルイノベーションセンター[当時])と定義される。

 ソーシャル・イノベーションをどう起こすかというマニュアルや王道は存在しない。DEでは、事業を進める事業者に評価者が伴走する形で、事業についての客観的なデータを取得したり、その意味合いを考えるというアプローチをとることが推奨される。それでやってみては振り返り、場合によってはこれまでとは違った行動を取る、というように、学習により状況に適応して変化していきながら事業を前進させていくのだ。

 状況に適応した変化から新しいものを生み出す試みは、経営学でいうところの「創発的戦略[1]」に近い。伴走者(評価者)の機能があることで、事業の進展に伴い新たな学習の枠組みが構築され、それが積み重なることでソーシャル・イノベーションにつながっていくと考えられる。

 このようにソーシャル・イノベーションを誘発するには、事業の担い手だけでなく、客観的な伴走者(評価者)とともに二人三脚で走っていくことが効果的であると言えよう。イノベーターと評価者の共創(co-creation)を生み出すのがDEなのだ。

[1] あらかじめ意図して計画的に実行する「意図的戦略」に対し、「創発的戦略」とは、当初計画されていた戦略が日々直面する状況や問題に対応を繰り返す中で出現してくる戦略